Platanus’s Favourite

お気に入りだけ。「殿堂入り」BL作品の感想。
すべてネタバレ感想なので、ご注意ください。
<< August 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

*Profile
*読書メーター
りょうの最近読んだ本
*Selected Entries
*Categories
*Archives
*Links
*Recent Comments
*Others

スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

- | - | -

疵 スキャンダル

かわい 有美子
アスキーメディアワークス
(2010-07-07)

これまた懐かしい作品の文庫化で。
主人公二人は90年代の「大蔵省」のエリート官僚ということで、84年に東大卒という設定。84年じゃ、まだ生まれてなかったという読者も多そう…。
でも話自体は90年代だから、古臭さはとくにないと思う。

面白いんだけど、あまり読み返したくはなかった作品。あんまりな話が続くので、好きなんだけど、読みづらいというか。再読したくないから旧版は買わなかったんだけど、かなり好きな作品だから、この機会に集めることにした。

毎月1冊ずつ刊行されたので、1冊ずつ感想を。

1巻
桐原の事情とか司馬との関係とか、奥さんとか有賀のこととか、話も結構詳しく覚えてたんだけど、この後(2巻以降)どういう展開になるのかはっきり思い出せない。たぶん読めば、そうだった、そうだった!ということになるんだろうけど。
というわけで、続きが気になって仕方ない。
でもたぶん、1巻が1番インパクト強かったと思う。養父と篠田のダブルじいさんパンチが強烈なんで、そこばっかり印象に残ってたみたい…。
ほとんど善人が出てこない作品って珍しいけど、エリート官僚が和気藹々ほのぼのと仕事してるほうが嘘くさいし、シビアなところに説得力を感じる。…いや、桐原の受難にリアリティーがあるとか思ってるわけではなく。
けど、桐原ぐらい優秀な人ならどこ行ってもエリートだろうし、転職したほうが給料高くて仕事は楽で、いまより数倍人生楽しくなりそう、とか思っちゃう。…や、そこであっさり転職するような人は、そもそもこういう人生を選ばないのかな。


2巻
面白かった。
でもやっぱり3巻以降の展開は思い出せない…。


3巻
ひどいよひどいよ、司馬!
…実は2巻でも、ひどいなあと思ってたけど、3巻は本当にひどい。
桐原は情が薄くてひどい人、と再三にわたって描写されてるけど、司馬のほうがひどい人だと思うけどなあ……?
まず、2巻で桐原が出世すると、「出し抜かれた」とか言って激怒してたけど、きみが桐原の立場だったら絶対に遠慮なんかしないだろ、と言いたい。
で、3巻では桐原の友達に嫉妬して桐原を傷つけた上に、離婚した奥さんが戻ってくるから別れる、そもそも最初から何の関係もなかったって…。うーん、ここまで自分勝手だと……。
とはいえ、司馬は結構、魅力的なキャラだと思う。ひどいけど。

4巻では桐原が幸せになってくれるといいなあ。再読なのに、なんとラストをまったく覚えてないという…。
3巻はでも、読み出したらほとんどの場面を覚えていた。プレゼントを買う場面とか、好きだなあ。
ちゃんと覚えていないけど、文章は前よりかなり読みやすくなったんじゃないかと思う。手元に本がないから分からないけど、確か前は読みづらい文章だと思った覚えがあるから。内容や雰囲気を変えずに読みやすくなってるので、書き直してくれてよかった。


4巻
やっぱりこの作品好きだなーと改めて。
そっか、こういうラストだったのか…。ラストは思い出せなかったけど、それぞれの決着は結構覚えていた。弥生のこととか、Wじいさんのこととか。有賀の決断は相当ページ数が割かれていて、お気に入りのキャラなんだなあと思ったこととか(笑)
でも、今回変更されている場面があったかどうかは、よく分からなかった…。

篠田との別れの場面では、情が薄いと言われていた桐原もずいぶん変ったなあと思った。成長もしたけど、良い悪いの問題ではなく、ただ考え方が変ったところもあるような。まあその変化が桐原にとってプラスなんだから、いいことなんだろうけど。
前回ひどかった司馬は、今回しっかり反省してて安心した。なんだか回り道したけど、両思いだと自覚した?二人が、自然な形でよりを戻すのもよかった。桐原も寛大だなあ。こういう落ち着いた展開だったから思い出せなったというのもあると思うけど、いままでが痛すぎただけに、この穏やかさが染みるというか。
しかしまあ、そこに奥さんへの愛があろうとなかろうと、片方が既婚のままで終わるBLって珍しそう。そこで揉めたりしないあたり、さすがに…苦労した人は違うのかも…。ああ、あと司馬は子供を持つ親としての気持ちが強いからかもしれない。
桐原が死ぬ思いで守ってきた仕事を楽しく続けられることと、これからも司馬のライバルとして切磋琢磨していく(っていうと爽やかすぎるかな?)のも、本当によかった。
同期の二人に力の優劣がないあたりは、同い年好きとしては美味しかったし(笑)
その後の話も、穏やかそうに暮らしててよかった。
2つ目、今回の文庫の書き下ろし冒頭は、ノベルズ刊行当時はあまり書きたくなかったかもなあと、なんとなく思った。いや、実際のところはよく知らないけど。

面白かった〜、大満足。
かわい有美子 | comments(0) | -

御曹司の口説き方

大金持ちの跡取り×名家の御曹司。

初恋の相手が結婚すると聞き、その結婚話を壊すために恋のライバル同士が手を結んで、作戦のために同居するという話。
大変どうでもいいが、すでに家の「当主」である千里を「御曹司」と呼ぶのは、ちょっと違和感があった。大企業の跡取り息子である虎之介のほうは、まさに「御曹司」ってイメージだけど。

なんだかベタな設定だなあと思いながら買ったんだけど、読む頃にはすっかりさっぱり…あらすじを忘れていた。で、最初に執事が出てきたので、執事攻かー。年上じゃなければ好みなんだけどなあとか、激しい勘違いをし、虎之介が出てきたときにようやくあらすじを思い出した…。
で、こういう傲慢攻だと、はあ?と呆れかえる言動が多いものだけど、虎之介にはまったく宇宙人要素はなく、最初から好感が持てるタイプだった。顔はいい、頭はいい、大金持ちで、性格も男らしくて。できすぎなぐらいなのに、気取りがないから親しみやすいタイプだった。
主人公のほうは、堅物でつまらないタイプかと思ったけど、真面目で礼儀正しく、育ちがいいなあと感心できるキャラで、こちらも感情移入しやすいし、魅力的だった。とくに、悪いと思ったら即謝るところが男らしくて好きだなあ。
そんな二人が、わりと早い段階で仲良くなっていき、惹かれ合っていく過程が、ほのぼのと描かれるのがよかった。意見が違ってケンカしたときも、どちらの言い分も分かるなあという感じで。とにかくキャラの言動に無理がないし、ストーリーはテンポがいいし、面白かった。

キャラも話も趣味に合い、大満足〜。
執事さんのキャラもよかったので、ちょっとスピンオフも読みたい。ってムリかな…。
鳩村衣杏 | comments(0) | -

交渉人は諦めない

電車の中で『〜嵌められる』を読み終わったので、続きは憂鬱な月曜日の楽しみに取っておこうと思っていたんだけど、我慢できずに『〜諦めない』も読んでしまった。一気読み。
というわけで、2冊セットで感想。

まず安心したこと。
交渉人シリーズはこれで終わりじゃなかった!
緊迫した展開や2冊同時発売や次巻がスピンオフということで、まさかこれで終わり?と心配していたけど、まだ続きがありそうな雰囲気。
面白い作品だからこそ、あまり引っ張らずに終わってほしいという思いもあるが、エダさんは今回もしっかりクオリティを保っている!
これなら続刊にも期待できるし、「長くなると間延びしてクオリティーが落ちる」というシリーズものの悲しい法則に当てはまることはなさそう。

冒頭の恒例となってきた芽吹のコスプレだが、今回はヤクザだった。芽吹は頑張っていたが、うわ〜、似合わない(笑) 優男な風貌だし、弁が立ちすぎて、凄んでもヤクザっぽいイメージじゃないなあと。

今回は芽吹の過去の話が明らかになり、重たい展開が続いた。芽吹の軽い一人称が魅力の作品だが、今回は三人称が多くて、あちこち視点が飛ぶので落ち着かなかった。それが読みづらいってわけじゃなくて、先の見えない感じと「何か裏があるらしい」という不安感を煽られて、ストーリーに合っていたと思う。こういうところも上手いなあと思う。
芽吹と兵頭の利害が対立してしまった場面では、最初は兵頭の行動を残念に思った。けど、恋人を優先して信念を曲げないところがこの二人の魅力なんだろうなあと思い直した。…まあ正直、ヤクザの信念なんかどうでもいいけど、兵頭は世話になった人のために、芽吹は亡き親友のために譲れなかったわけで、結局同じ理由なのかな。
タイトルどおり、芽吹の活躍があまり見られなくて残念だった『〜嵌められる』だが、芽吹の過去がじっくり語られてよかった。痛手から少しずつ立ち直っていく学生時代の話、その後、親友を失って絶望する話。本当に辛い過去が続いているが、そこから這い上がることができた芽吹は強いなあと惚れ直した。

『〜諦めない』では、最初のほうから「反撃はもう始まってるんだな」と分かる伏線(プラグソケットとビー玉)がきっちり張ってあるのだが、それが分かっていても芽吹にとって痛い展開が続き、読んでいてしんどい部分があった。私は芽吹と違って兵頭を信用していないので(笑)、ちょっと兵頭が嫌いになった。
芽吹は自分で思っている以上にタフな人だなあというエピソードが続いたし。
芽吹が盗聴に気付いていたというのは分かっていたが、ビー玉の使い道は分からず、種明かしで驚いた。たったそれだけのメッセージで…二人の絆の強さが改めて分かるエピソードで、不足しまくりだった?ラブ部分でも最後に大満足。

今回大活躍だった?環は、確かに強い敵役だったのかもしれないけど、USBを持ち歩いていると分かっていて、ヤクザが手を出せないものかな〜という疑問がちょっとあった。あと、「気に入らない」とかいう感情的な理由だけで動く敵というのはあまり好みじゃなく、面白くはあったけど、個人的にはそこだけ物足りなかったかなあ…。

3冊ほどヘビーな展開が続いた。もちろんそれも読み応えがあって最高に面白かったけど、次回は芽吹の一人称オンリーのコメディーに戻して、依頼人を助ける芽吹の活躍を描いてほしいなあ。笑えるコメディー作品って数が少ないので、このシリーズには笑いも期待してしまう。

榎田尤利 | comments(0) | -

散る散る、満ちる

凪良 ゆう
心交社
(2010-07-10)

 コメディでもなければ、変った設定でもない凪良作品ってことで期待していたのだが、期待以上に楽しめた。
リーマン、しかも年下攻(部下)という設定も個人的な趣味の問題で嬉しい。
職業ものとか事件もののBLも好きなんだけど、やっぱりこういう恋愛が前面で全面なストーリーのほうが好き。
受の如月も攻の里見も有能でカッコいいリーマンなんだけど、適度に弱い部分を持っていて、キャラも地に足が着いているという感じ。かといって読んでいて疲れるほどのリアリティーもなく、白けるほどの作り物っぽさもなく、ある程度リアルな日常ものが好きな私にとっては夢を見やすい作品だった。

穏やかで優しいのに素直になれないというか…甘え下手な如月の不器用さは共感しやすかった。小さな見栄を張ってしまう気持ちも分かるなあ〜と。
その如月が家族扱いしている犬のロボットは、最初はいい大人がオモチャと会話…という感じで引いてしまったのだが、読んでいるうちに情が移ってくる。如月に同情して理解するというんじゃなくて、少しずつロボットの存在が大きくなっていって、無機物を「物」として見ずに人格を与えて愛する気持ちが分かるようになるんだと思う。ここらへんが上手いなあと。
本物の犬を出せば、大半の読者は出てきた直後に可愛いと思うだろうし、主人公がペットを愛する気持ちというのも説明や描写がなくても理解や共感を持てるし、人工知能を持ったアンドロイドなら「キャラ」としてすんなり受け入れるはず。けど、オモチャのロボットって微妙な位置のものを自然に「家族なんだな」と思わせるあたりがよかった。
…キンピラ(ロボットの名前)について熱く語りすぎたか。
あと、如月の住んでいる日本家屋&庭もよかった。

はじめのほうは里見の態度が図々しく感じ、攻は親友の榎本のほうがいいなあと思ったりした。二人の関係が進んでいくにつれて、無神経に思えた里見の態度が素直で気持ちに正直なだけなんだと分かってきて、少しネガティブなところのある如月にはぴったりな相手だと思えてきた。
里見が片思いの相手だった高橋から如月へと気持ちを移していく過程がまた自然な流れで、如月の視点だから里見の気持ちは少し見えづらいけど、ブレがないな〜と感心してしまった。

ちょっと地味だけど、等身大よりちょっぴり上ぐらいのキャラが魅力的だし、読後感がよくて面白い作品だった。
榎本のSSもすごく好みだった。とくに最後の2行が秀逸です。
凪良ゆう | comments(0) | -

イノセンス―幼馴染み

砂原 糖子
幻冬舎コミックス
(2010-05-17)

これは2005/2にオークラから出た単行本の復刊。…アイス、ほんといいレーベルだったな。
砂原作品の「殿堂」を考えたときに、『優しいプライド』とこの作品がほぼ同時に思い浮かんだ。けど、この作品のほうは本が手元になかったし、なにより書くのが難しくて、「下書き」を残しただけでなかなか感想を書けずにいた。
ぐずぐずしているうちに文庫が出たので、この機会に勢いをつけて書いてしまおうかと。



なんで感想が難しいかというと、主人公の睦が特殊学級に行くほどではないけど、知能が遅れているから。
この説明だけでも、「差別的になっていないだろうか」、「表現として適切だろうか」、「偏見が入っていないだろうか」と考えてしまうので、長々感想を書くとなると難しい。あるいは「難しい」と云ってしまうことさえ、誰かを傷つけることになってしまうのではないかと心配になる。
そんなわけで、小説、しかもBLというラノベのジャンルで扱うのは相当難しいテーマだと思う。これを逃げずに、丁寧に、気を遣いつつ、真摯に書き上げた砂原先生はすごい。
もしかしたら、書き方に問題(差別的で不適切な表現、偏見等)もあるのかもしれないけど、上にも書いたように「この問題をBLで扱うのはどうか」と避ける考え方自体が差別に繋がることもあるので、まず書こうと思った姿勢だけでも評価されるところなんじゃないかと思う。
しかも決して、特別視するような書き方じゃなかったし、睦の目を通して差別っていうのがどういうものなのか分かりやすく書いている。これでダメっていうならこのテーマは不可侵、書くだけでタブーってことになりそうだと個人的には感じたが…。


…とても暖かくてBLとしても楽しい作品なんだけど、どうしても堅苦しい前置きが必要になってしまう。
読んでいて、やっぱりちょっと痛い場面もある。睦が「触らないで」と言われて、手を洗い続けるシーンとか、強烈で忘れがたい。でも来栖と、家族や友人の愛情が読者の気持ちまでしっかりフォローしてくれるし、辛いからこそ人の気持ちの暖かさにじんわりするというか。

睦は一途でいじらしいので、感情移入しやすいし、素直に応援したくなるキャラ。攻の来栖はちょっと不器用だけど、やっぱり優しくて…、睦から逃げてしまう。しかも再会まで8年間という思い切った(?)ブランクが空くのだが、来栖からの手紙も途絶え、連絡もない状態で、睦は来栖を追いかけて上京する。うーん、すごい一途だ。
じゃあ来栖がひどい人なのかというと、そうでもない。いつまでも子供みたいな睦と恋愛するのって、常に罪悪感がつきまとうものだろうと想像つくし。実際には同い年でも、大人が小中学生を好きになってしまうような感覚なんだろうと思う。せがまれてキスはしたけど…その先のことまで考えたら、18歳の来栖が逃げ出したくなるのも当然かもしれない。
最初に読んだとき、「何も分かっていなそうな睦に手を出していいものなのかどうか」というようなことを考えさせられた。…でも、相思相愛の相手が手を出しちゃいけないなら、睦は大人なのに誰ともセックスしちゃいけないって言うようなもので。だとしたら悩むところは同性同士だってことぐらいだろうし。(…BL読者にとっては考える必要のない問題)
と、来栖が再会後にすぐに思い切れるわけもなかったが、大事にしたいがゆえの葛藤がよかったし、ハードルを乗り越えてのハッピーエンドは感動的だった。
そして睦が来栖を「純粋」と表現するところに、この作品のよさがあると思った。睦の台詞に「確かにそうだなー」と頷けるところがいいというか。来栖の睦に対する言動は自分勝手だったんだけど、逃げてしまったことには共感できるし、来栖は来栖ですごく一途。睦のことを忘れたいと思いながらも、8年間大事に、睦にもらった「願い事をかなえる券」を持っていたなんて…やっぱり純粋な人なんだろうなあと。まあそのことだけじゃなく、睦に対する優しさを見ていてそう感じた。
睦も一緒にいて癒されるような純粋性を持っている。
当て馬として(?)来栖の婚約者が出てくるのだが、この女性は優しそうに見えて睦を馬鹿にしていたり、選挙に利用しようとしたりする。読者に嫌われるタイプのキャラ。でも睦は彼女のことを理解したうえで優しい人だと感じる場面がある。人の悪意を見抜けないとか、睦自身がお人好しキャラだからではなく、きちんと理由があり、暖かい目線で彼女を見た結果として優しい人だと思うところがよかった。…「障害があるゆえに、天使みたいに悪意がない」という描き方じゃない。彼はそれこそ幼稚園児のころから変らずに、「嫌いなものは思いつかない、だけど好きなものはいっぱい」という人で、ものの見方が優しいだけだと思う。そんな睦の優しさに癒される。
そしてそういう睦の優しさに一番救われてるのは来栖で……、そんな二人だから幸せになってほしいと思う。

砂原糖子 | comments(0) | -

何ヶ月ぶりなのか…

前回の記事から、ずいぶん間が空いてしまった…。
古い作品を再読すればもっと更新できるし、それはそれで楽しいんだけど、できれば新しい作品で「殿堂入り」を増やしたいなあ。


…このブログ、広告がうるさくなってしまったな。

雑談 | comments(0) | -

上海

かわい 有美子
幻冬舎コミックス
(2009-12-15)

数年ぶりに再読した。
これは復刊でかなり手を入れているということだが、ノベルス版は読み返していないので、文庫版の感想。
うっすらとした記憶を元に「ここを肉付けして、あのへんは少し削ったのかなあ」と考えてみた。(まあ勘違いもしてそうだけど)わりと内容を覚えているものだなと少し驚いた。

イラストは…、どう見てもキャラ年齢が20代には見えなくて表紙を見たときガッカリしたのだが、雰囲気があってとてもきれいだった。正直、私がこの作品に持っていたイメージ(再会したときエドワードはまだ17歳なんだけど、もっと大人になってからのイメージのほうが強かった)には合わないのだが、趣味の問題はともかくとして、イラストとしてはすごくいいと思う。

雰囲気が良くて大好きな作品。
子供時代のエピソードから始め、エドワードの一途な思いやレイモンドの情の深さを丁寧に描き、激動の時代と身分差カップルにふさわしいドラマティックな別離を経てのハッピーエンド。
いい意味での王道ストーリーになっていると思う。単純ではあるんだけど、薄っぺらさはなく、何より当時の上海という街への憧れが伝わってくるので雰囲気がいいし、読み応え十分。
身分差が単なる恋の障害として出てくるのではなく、時代を感じさせ、主人公の生き方、考え方にまで深く影響を及ぼしているところがすごいなあと思う。なんていうか普通の?身分差ものだと、「人目を憚る関係」とか「使用人として主人を尊敬している」とか、そのへんまでしか描かれないことが多いと思う。垣根が高くて大変だねーと思うぐらいで、あまり考えるようなことはない。でも、この作品だともっと踏み込んで描かれているように感じるし、いちいち考えさせられる。エドワードの「私は中国人ですから」という台詞がすごく重たい。そしてそれが健気さ、一途さに繋がっているあたり、時代恋愛ものとしてよくできていて、いいなあと。

ストーリーの順番にお気に入りのシーンを。
最初にレイモンドが万年筆を買って帰る序章。短い文章なんだけど、当時の上海の情景を描写しつつ、プレゼントを用意したレイモンドの優しい気持ちがよく分かるし、気の利いた導入だなあと思う。伏線にもなっているところがまた、伏線好きな私にはたまらない。

ダンスホール。
二人の距離が縮まる場面で、普段は健気で慎ましいエドワードの別の顔が見られるところがいい。レイモンドの台詞の甘さとつれなさの匙加減も好き。

婚約破棄した後にルーシーと会う場面。
少女マンガの主人公のライバル役みたいなキャラなんだけど、この場面で悪い人じゃないんだなーと思えるし、なかなか印象的な場面。

蘇州。
景色が目に浮かぶような、美しい文章だと思う。タイトルは「上海」だし、上海の街の描写も好きなんだけど、この作品のなかで1番好きなのがこの旅行の場面で、すごく印象に残っていた。静かできれいで、少し不安な感じがいい。

埠頭での別れ。
メロドラマ風最高潮なエピソードだが、いい意味で王道。盛り上がるし、お互いへの思いが強く出ていて感動的。
ここでエドワードを置いていくというレイモンドの選択がいいと思う。もちろんそれこそ身を引き裂かれるような思いで置いていくわけだが、健全で前向きな考え方が根底にあって、こんなところにもキャラの魅力が出ているなあと。「ここでお別れです」というエドワードの台詞も同じ。

再会。
いやもう…エドワードの健気さと一途さに涙が出る。何度読んでも感動的。
何年もかけてやっとの思いではるばるイギリスまで来たのに、迷惑はかけまいと会いもせずに帰ろうとするとか…。
レイモンドの最後の台詞がまたいい。

「歌姫」
香港でのエドワードの話。これも雰囲気がある短編。初めて読んだ当時、再会後の甘ったるい話を期待していたのにと思いつつ、すぐに引き込まれてしまったのを思い出した。すごく好き。
レイモンドは出てこないし、第三者視点なのだが、エドワードの切ない思いがしっかり伝わってくる。歌姫も魅力的。

「China Rose」
こちらは最初に期待していたような、再会後の甘い話。まあこの書き下ろしが読みたくて文庫を買ったわけだし、楽しみではあったんだけど、正直不安でもあった。10年以上前の作品に続編をつけるって、作品の雰囲気が変ってしまったりしないのかと…。
すっかり落ち着いてからの二人なので明るくなっているのは当然だし、心配していたような変化は感じなかった。ノベルス版を読み直せば多少の違和感があるのかもしれないが、文庫版を通しで読んだ直後に読む分にはまったく違和感がなかった。
本編は全体に物悲しい色がついているのに対し、こちらは時代が変り、明るい未来を感じさせる話になっていた。作品のカラーとして、これは好みの分かれるところかもしれない。けど、分かりやすく甘いハッピーエンドを求める読者が多いという事情(…?)を抜きにしても、私はこれはこれでいいんじゃないかと思った。作品の舞台が戦後になったことを考えると、時代の空気を反映しているように感じた。

かわい有美子 | comments(0) | -

嫌な奴

 木原音瀬 
ビブロス 1998/04

イラストがとても綺麗なんだけど、密林画像が出てこなかった。残念。

初期の作品で、しかも一人称ということも関係しているのかもしれないが、なんだか瑞々しさを感じる作品。
内容的にはこれでもかというぐらい木原作品で、原点という感じだけど。いまとは少しスタイルが違うというか、まだ確立されていないような印象を受ける。完成度が低いって意味でもないし、木原節じゃないって意味でもないんだけど。うーん、説明が難しい。

タイトルの「嫌な奴」=和也と感じる読者が多そうだなーと思う。アンケート取ったわけじゃないんで、想像だけど。『FRAGILE』での青池同情票の多さを考えると、キャラやストーリーの傾向が被る作品だし、三浦の一途さに惹かれる読者が多そうな気がする。『FRAGILE』で大河内の気持ちのほうが分かりやすかった私は、この作品でもやっぱり和也の気持ちのほうに感情移入して読んだ。
いや、視点キャラにどっぷり感情移入してしまうもので、基本的に視点キャラに肩入れしてしまうせいもあるんだけど。そんなわけで、かなり和也寄りなのを承知で偏ったまま感想。
和也の嫌なところって、私は別に嫌じゃないというか、受け入れやすい欠点で。大人になれば、嫌いな人間とでも仲良くやっていくっていうのは当然求められる態度だし。相手に嫌われてるのに気付かずに寄ってくる人のほうが、むしろ人の気持ちに鈍感で、気遣いに欠けるタイプじゃないかと。鈍いっていうのは、優しさが足りないっていう側面があると思う。私は三浦が乱暴だったり強引だったり非常識だったりすることより、そういうところが受け付けられない。
あと和也は結構、三浦に冷たくしてしまうことで自分も傷ついてるので、悪い人じゃないよ〜と思う。あ、悪く書いたばっかりだけど、三浦も別に嫌ってない。(大筋で?)結構好き。
…なんていうか、途中から態度がよくなろうが、どれだけ相手から好かれようが、どうしても好きになれない相手っているの分かるし。好き嫌いっていうのは、もう理屈じゃないし、相手の態度の問題でもないと思う。
死んだって聞かされてもなんとも思わないほどの嫌い方もすごいと思うけど、三浦の和也への執着はこれの裏返しなわけで、不思議でもなんでもない。三浦が和也に冷たい仕打ちをされても離れられないように、和也はどれだけ三浦に想われたとしても逃げたいんだと思う。
ただまあ、和也は本当に三浦が嫌いなわけでも、逃げたいわけでもないので、そこらへんが切ないっていうか、もどかしいっていうか。三浦に感情移入していれば、ムカつくところになるのかな? スイートラブが好きな人だと、「愛はどこですかー?」って叫びたくなりそうな話だし、痛さもあるんだけど、他の作品みたいに突き抜けたところがない。心理描写が繊細で、ストーリー展開より心情面を軸にしているようなところに、瑞々しさを感じるのかもしれない。
私はこの作品を、お互いに対してだけは極端なぐらい不器用ですれ違ってしまう二人の話って受け止めてる。

木原作品はどれもラストがいいと思うけど、この作品のラストは秀逸だと思う。
和也に感情移入しながらほろ苦く読み進めていって、ラストで三浦の切ない愛情に触れて泣ける。私の場合、本当に最後の最後までこないと、三浦の気持ちが分からない。何度読み直しても、きっとそうなんだと思う。
和也にいつか三浦の気持ちが届いて、素直な気持ちで受け入れられる日が来ればいいなあと。ほんのちょっと三浦に持ってるイメージが変わるだけで、劇的に関係が変わってしまいそうなだけに、二人の現状が切ない。

木原音瀬 | comments(0) | -

ディア・グリーン 瞳の追うのは

富士山 ひょうた
幻冬舎
(2009-09-24)

 お久しぶり〜な3巻。これで完結。
分厚くて読み応えがあった♪
このシリーズ、ほんと好きだから、早く続きが出てほしいっていうのと、サクサク続きが出て終わっちゃうのは寂しいって気持ちが両方あって。2巻からちょっと待たされたから、ちょうどいい時期だった。

友達から両想いになるまで結構じれったくて、付き合いだしてからも落ち着くまで時間がかかって…。どちらか片方が頑張ったり、想いが強かったりってことはなくて対等で、お互いに歩み寄って努力して、じっくり育ててきた関係なので、同棲してからの仲睦まじい生活が感慨深い…。自然な空気で寄り添う二人の夫婦っぷりがいいなあ。男同士ってことで、家族との関係とか大変そうだけど、なんか何があっても大丈夫そう。
私がBLに求めている甘さがここに全部あります。
…とか言いたくなるような、読んでて幸せな気分になるシリーズだった。途中の切なさ、もどかしさも含めて、好きだなー。
3巻を読む前に、1巻から通しで読み直したけど、やっぱり優しい雰囲気とさっぱりとした爽やかさがあった。内山くんとか、いい人でいい男だよなあと。3巻には出てこなかったけど、幸せになってほしいもので。
それにしてもこの二人、ほんとバランスがいい関係だった。最初から最後まで。
3巻は時間が飛び飛びなんだけど、どの時期もなんだかんだいって二人の仲のよさとか、バランスのよさが変ってないから、ああいいなーって思えるし、時間が飛んでも普通に世界に入り込める。「やっぱり夫婦だね〜」ていうのと、「いつまでたっても新婚みたいに仲いいよね」っていうのが両方当てはまるカップルで。
BLで「嫁」とか「夫婦」って言われると趣味の問題で抵抗あるんだけど、この二人に関しては人生のパートナーって意味で「夫婦」って呼び方がしっくりくるような。なんかねー、受=女役みたいなものがまったくなくて、本当にただカップルでパートナーなの。
もともと好きな包容攻、不器用受だからってところも大きいけど、二人の関係性が好き。
やっぱり理想的なBLカップルだなー。

富士山ひょうた | comments(0) | -

LOOP

木原 音瀬
オークラ出版
(2003-10)

『恋愛時間』の有田の弟の話。


あらすじ引用

幼い頃から州脇義国のなかには、宮沢という若い男がいた。宮沢は、過去に愛した女への未練を昇華できず、現世の自分(州脇)のなかにとどまり続けていた。そんなある日、大学で知り合った英一が、宮沢の想い人の転生であることを知った宮沢は、果たせなかった彼女との幸せな日々を、英一で遂げようと英一に付きまとうように。英一会いたさに州脇の身体も、意識さえも自由に支配していた宮沢だったが…。なんと!文庫でしか読めない大量番外編付き。

「LOOP」
これはちょっと読みづらい話。ただ…苦手という感じでもない。
前世でストーカー、幽霊?(ここまで宮澤)になってもストーカー。生まれ変わっても(ここから州脇)もちろんストーカー。死んでもまだストーキングされ続けるって救いがないな〜というのが初読での感想……。このストーカーぶりの息苦しさと、前世の記憶が陰惨だということばかりが印象に残っていた。
で、今回読み直してみて、このストーカー描写がわりと短いことに気付いた。そんなくどくど書いてあるわけじゃない。ただ話に引き込まれ、どっぷり感情移入しながら読んでいたので、ものすご〜く長く感じていたらしい。夢として出てくる前世の記憶もわりと短い。だけど強烈。
実のところ、英一(有田弟)がなぜ洲脇に惹かれたのかがよく分からない。流されやすい性格なのは確かなようだが、最初に脅された時点から拒否するのは難しくなかったのに、付け入る隙を与えているあたりが理解できない。ここは宮澤の執念が勝ったと考えておけばいいのかな…。
木原作品のキャラは「恋に落ちた」というより「情が移った」という感じで相手を受け入れていくことが多いような気がする。そこから激しい愛情に変っていくのだが、心理描写が巧みなので、なんだかよく分からないけど感情移入してしまう。まさに「恋愛は理屈じゃない」ってことを体現しているというか…。
洲脇が英一に惹かれる過程も説明しようとすると結構難しいような気がする。宮澤の想いにシンクロしていたからというわけでもなく、洲脇は洲脇として英一に惹かれているような感じがする。
たぶん説明がないから余計に心情が伝わってくるんじゃないだろうか。だってストーカーになってしまうほどの執着とか、家族を捨ててしまうほどの激しい恋は、やっぱり言葉で説明されても理解できないし。そこらへんは感じ取るしかないような気がする。…感じ取らせるだけの筆力がすごい。
もっと穏やかに、自分と周囲を傷つけない方法で想いを遂げることもできそうなのに、そうできなかったこと、こういう方法でしか結ばれなかったことが納得できてしまう。単純に思えたタイトルが重たい…。
前世の話も強烈に痛い。
英一の前世である文が、自分を監禁し強姦し堕胎にまで追い込んだ宮澤を殺すことを「裏切った」と表現されているところに寒々しさを感じた。ここまでされて裏切るも何もないだろうと思う。そして文がほんの少しでも宮澤に同情だか愛情を残したことが私には不思議でならないのだが、文の優しさ(なのかな?)がこの作品の救いになっていることは確かで。文が殺されてしまうという悲惨極まりない結末なのに、夢の終わりは悲しく柔らかい感じがする。とてもきれいで鮮やか。

「eternal」
英一と洲脇のその後と、英一の叔父の話。
最初は快活なタイプに見えた洲脇が、なんだかすっかり暗い感じになっちゃったなあとか最初は思っていたのだが、英一への真摯な態度がいいなあと。「LOOP」の終わりでは、英一はこれで幸せになれるのかなー、有田兄がもう少し頑張って二人を引き裂いてくれたほうがよかったんじゃないかなーという気持ちも残っていたのだが、この作品を読むとこれでよかったんだと確信できる。
ただ「LOOP」はあの終わり方が一番相応しかったと思う。スイートエンドに慣れた読者としては、ほろ苦いラストだったけど、あのストーリーはあそこで一旦幕を下ろすべきで、物語として語るべきところはあそこまで。甘ったるくせずに続編という形を取ったのがよかったんじゃないかと。
初読のときはラストの英一の台詞に排他的、刹那的、閉鎖的なものを感じて、なんだかなあと思ったものだが、じっくり読み返してみるとこれはこれでいいなあと思えた。とくに「F」を読んだ後だと、余裕をもってというか、長い目で見られるからかもしれない。この二人の未来は続いていくし、一緒に歳を重ねていけば、自然と落ち着くんじゃないかな。まあ無限ループに陥って、心中しちゃうかもしれないような危うさも残ってるが…、それはそれでいいんじゃないの、と。
ただ、この二人は今度こそ幸せになれそうな気がした。

「F」
英一の叔父、和久と友人の船橋の話。
これは名作だなーと思う。60年代が舞台で、BLというよりは青春小説といった感じの味わいがある。現代と同じようにジタバタしながら、いまよりちょっと生真面目な学生の姿が描かれている。
それにしても、人の心の機微がまったく分からない船橋のような人こそ、本なんて読まずに人と話せばいいのになあと思ってしまう。そんなに空っぽで、文学が心に響くことってあるのかな? でもそこでまわりに突き放されずに、和久や他の友人たちのように「知りたい」と思わせるだけのものを持っているのだから、空っぽってことはないのかもしれないけど。不思議な魅力を持ってる……。剣道している場面とか、「格好いい」っていうんじゃなく、なんか惹かれるものがある。
そういえば「F」っていうイニシャルも象徴的かもしれない。他のハ行の名前なら「H」になるのに、フのときだけはFにできるってところが、なんか船橋のキャラに合ってるような気がする。
和久が先生を本気で愛しながらも、船橋に淡い想いを抱くところもいい。「彼女より船橋が好きだって気付きました」って展開になったら、普通のBLとしては面白かったと思うが、この作品に限っては「安っぽい」と感じたと思う。船橋が簡単に恋を自覚できなかったところに、この作品の深さがあるというか。
30年後、和久が病気でもう長くないというときになっての再会と告白。じわりと悲しくなる。号泣とか、涙がほろりとか、胸がキュンとなるとかいう悲しさじゃなくて、「ああ、悲しいね」って諦め半分穏やかにしみじみと悲しくなる。文学的な悲しみという感じ。
木原作品を文学的な作品だとは思わないし、エダさんの「魚住くん」の一部分とか杉原理生の「テレビの夜」に感じたような文学の香り?とも違う。ただこのモヤモヤッとした悲しさが純文学の読後感に近いので、文学なんてよく分からないんだけど「文学的」と書いてみた。
心に刺さるというより、心になにか残す作品で、かなり好きな短編。

木原音瀬 | comments(0) | -