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他社で刊行していた本の再販。
未完でずっと止まっていたけど、ようやく完結。
…ようやく「殿堂入り」させられる。
『東方美人』
旧版は暗くて救いのないところでストップしてしまい、これ本当にハッピーエンドになるのかな?と不安だった。…死亡フラグも立ってたし。
もともとテーマが重すぎて読みづらい話でもある。
というわけで、アンハッピーでも構わない、という覚悟で読み始めた。
時代の空気がしっかり描かれてて、読み応え十分。硬い文章で描写がくどく感じる時もあるけど、その取っ付きづらさが国に雁字搦めにされた二人の息苦しさを伝えてる気がする。
とにかくキャラが魅力的。アレクセイが謎めいて気まぐれに見えるサエキに惹かれていく気持ちがよく分かるし、サエキがアレクセイの優しさに癒されるのも納得。
とくにアレクセイは、すごいなあと思う。BLの攻ではというより、小説の主人公として珍しいタイプ。何をやらせてもものすごく優秀で、背が高くて顔もいい。でも、性格は人当たりがよくて控えめで善良。有能と善良を兼ね備えているキャラクターって意外と珍しい気がする。「お人好しで損をする」とか、「実は腹黒い」とか、「大型ワンコ系」とか、性格のいいキャラにはなにかとオプションがつきやすいものだと思うけど、ストレートに捻りもなく、いい人でいい男っていう設定。
かわい作品のいい人攻は格好いいから好きだ。
ソフィアも素敵。気が強いけど、出しゃばらないキャラというか。
時代背景もそうだし、職業はスパイだし、先行きが心配な二人だけど、なんとか幸せになってほしい。
東西冷戦は遠くなったけど、いまだにロシアは遠い国だと五輪を見ていて思う…。
『東方美人2 千年王国』
個人的に好意を持ってしまった人を殺せという、アレクセイへの残酷な指令に対し、サエキが裏で庇うところがよかった。「まだ」人を殺したことはなかったサエキは、アレクセイの代わりに重たい罪を引き受けたわけだけど、それでアレクセイが救われたわけでもなく…。
抹殺の対象がいい人なので、この辺は読んでて辛かった。
ソ連崩壊に向けて、サエキはどんな活動をしていくのだろうと思っていたら、話はいきなりアフガニスタンへ。そういえば伏線はあった…。
暗く淀んでいたベルリンの生活から、今度は戦地へ。現地の過酷さが描かれるので、何かあるだろうとは思っていたけど、アレクセイが行方不明に…。
ここで、アフガンでサエキがスパイとして掟破りな最後の手段を使ってしまうところや、イギリス政府に助けを求めるのは、まさに命懸けの戦いで読み応えがあった。
自分一人だけのためには(アルファが裏で多少は手を回してくれるにしても)ソ連を裏切る勇気は出なかったけど、恋人のためなら即決…というのも泣かせる。
設定が設定だけに、二人はベルリンの壁崩壊をどんな風に迎えるのか心配だったけど、まさかこんなに穏やかだとは思わなかった。ソ連が崩壊しても完全に自由になったわけでもないし、アレクセイが家族と会えるのは何年後か分からない。
でも、よかったな、と思えるラストだった。
日本で桜も見られてよかった。いつかダーチャに行く話も読みたい。
待ったかいがあって、大満足。これだけ骨太の設定のBLってなかなか読めない。
数年ぶりに再読した。
これは復刊でかなり手を入れているということだが、ノベルス版は読み返していないので、文庫版の感想。
うっすらとした記憶を元に「ここを肉付けして、あのへんは少し削ったのかなあ」と考えてみた。(まあ勘違いもしてそうだけど)わりと内容を覚えているものだなと少し驚いた。
イラストは…、どう見てもキャラ年齢が20代には見えなくて表紙を見たときガッカリしたのだが、雰囲気があってとてもきれいだった。正直、私がこの作品に持っていたイメージ(再会したときエドワードはまだ17歳なんだけど、もっと大人になってからのイメージのほうが強かった)には合わないのだが、趣味の問題はともかくとして、イラストとしてはすごくいいと思う。
雰囲気が良くて大好きな作品。
子供時代のエピソードから始め、エドワードの一途な思いやレイモンドの情の深さを丁寧に描き、激動の時代と身分差カップルにふさわしいドラマティックな別離を経てのハッピーエンド。
いい意味での王道ストーリーになっていると思う。単純ではあるんだけど、薄っぺらさはなく、何より当時の上海という街への憧れが伝わってくるので雰囲気がいいし、読み応え十分。
身分差が単なる恋の障害として出てくるのではなく、時代を感じさせ、主人公の生き方、考え方にまで深く影響を及ぼしているところがすごいなあと思う。なんていうか普通の?身分差ものだと、「人目を憚る関係」とか「使用人として主人を尊敬している」とか、そのへんまでしか描かれないことが多いと思う。垣根が高くて大変だねーと思うぐらいで、あまり考えるようなことはない。でも、この作品だともっと踏み込んで描かれているように感じるし、いちいち考えさせられる。エドワードの「私は中国人ですから」という台詞がすごく重たい。そしてそれが健気さ、一途さに繋がっているあたり、時代恋愛ものとしてよくできていて、いいなあと。
ストーリーの順番にお気に入りのシーンを。
最初にレイモンドが万年筆を買って帰る序章。短い文章なんだけど、当時の上海の情景を描写しつつ、プレゼントを用意したレイモンドの優しい気持ちがよく分かるし、気の利いた導入だなあと思う。伏線にもなっているところがまた、伏線好きな私にはたまらない。
ダンスホール。
二人の距離が縮まる場面で、普段は健気で慎ましいエドワードの別の顔が見られるところがいい。レイモンドの台詞の甘さとつれなさの匙加減も好き。
婚約破棄した後にルーシーと会う場面。
少女マンガの主人公のライバル役みたいなキャラなんだけど、この場面で悪い人じゃないんだなーと思えるし、なかなか印象的な場面。
蘇州。
景色が目に浮かぶような、美しい文章だと思う。タイトルは「上海」だし、上海の街の描写も好きなんだけど、この作品のなかで1番好きなのがこの旅行の場面で、すごく印象に残っていた。静かできれいで、少し不安な感じがいい。
埠頭での別れ。
メロドラマ風最高潮なエピソードだが、いい意味で王道。盛り上がるし、お互いへの思いが強く出ていて感動的。
ここでエドワードを置いていくというレイモンドの選択がいいと思う。もちろんそれこそ身を引き裂かれるような思いで置いていくわけだが、健全で前向きな考え方が根底にあって、こんなところにもキャラの魅力が出ているなあと。「ここでお別れです」というエドワードの台詞も同じ。
再会。
いやもう…エドワードの健気さと一途さに涙が出る。何度読んでも感動的。
何年もかけてやっとの思いではるばるイギリスまで来たのに、迷惑はかけまいと会いもせずに帰ろうとするとか…。
レイモンドの最後の台詞がまたいい。
「歌姫」
香港でのエドワードの話。これも雰囲気がある短編。初めて読んだ当時、再会後の甘ったるい話を期待していたのにと思いつつ、すぐに引き込まれてしまったのを思い出した。すごく好き。
レイモンドは出てこないし、第三者視点なのだが、エドワードの切ない思いがしっかり伝わってくる。歌姫も魅力的。
「China Rose」
こちらは最初に期待していたような、再会後の甘い話。まあこの書き下ろしが読みたくて文庫を買ったわけだし、楽しみではあったんだけど、正直不安でもあった。10年以上前の作品に続編をつけるって、作品の雰囲気が変ってしまったりしないのかと…。
すっかり落ち着いてからの二人なので明るくなっているのは当然だし、心配していたような変化は感じなかった。ノベルス版を読み直せば多少の違和感があるのかもしれないが、文庫版を通しで読んだ直後に読む分にはまったく違和感がなかった。
本編は全体に物悲しい色がついているのに対し、こちらは時代が変り、明るい未来を感じさせる話になっていた。作品のカラーとして、これは好みの分かれるところかもしれない。けど、分かりやすく甘いハッピーエンドを求める読者が多いという事情(…?)を抜きにしても、私はこれはこれでいいんじゃないかと思った。作品の舞台が戦後になったことを考えると、時代の空気を反映しているように感じた。