Platanus’s Favourite

お気に入りだけ。「殿堂入り」BL作品の感想。
すべてネタバレ感想なので、ご注意ください。
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嫌な奴

 木原音瀬 
ビブロス 1998/04

イラストがとても綺麗なんだけど、密林画像が出てこなかった。残念。

初期の作品で、しかも一人称ということも関係しているのかもしれないが、なんだか瑞々しさを感じる作品。
内容的にはこれでもかというぐらい木原作品で、原点という感じだけど。いまとは少しスタイルが違うというか、まだ確立されていないような印象を受ける。完成度が低いって意味でもないし、木原節じゃないって意味でもないんだけど。うーん、説明が難しい。

タイトルの「嫌な奴」=和也と感じる読者が多そうだなーと思う。アンケート取ったわけじゃないんで、想像だけど。『FRAGILE』での青池同情票の多さを考えると、キャラやストーリーの傾向が被る作品だし、三浦の一途さに惹かれる読者が多そうな気がする。『FRAGILE』で大河内の気持ちのほうが分かりやすかった私は、この作品でもやっぱり和也の気持ちのほうに感情移入して読んだ。
いや、視点キャラにどっぷり感情移入してしまうもので、基本的に視点キャラに肩入れしてしまうせいもあるんだけど。そんなわけで、かなり和也寄りなのを承知で偏ったまま感想。
和也の嫌なところって、私は別に嫌じゃないというか、受け入れやすい欠点で。大人になれば、嫌いな人間とでも仲良くやっていくっていうのは当然求められる態度だし。相手に嫌われてるのに気付かずに寄ってくる人のほうが、むしろ人の気持ちに鈍感で、気遣いに欠けるタイプじゃないかと。鈍いっていうのは、優しさが足りないっていう側面があると思う。私は三浦が乱暴だったり強引だったり非常識だったりすることより、そういうところが受け付けられない。
あと和也は結構、三浦に冷たくしてしまうことで自分も傷ついてるので、悪い人じゃないよ〜と思う。あ、悪く書いたばっかりだけど、三浦も別に嫌ってない。(大筋で?)結構好き。
…なんていうか、途中から態度がよくなろうが、どれだけ相手から好かれようが、どうしても好きになれない相手っているの分かるし。好き嫌いっていうのは、もう理屈じゃないし、相手の態度の問題でもないと思う。
死んだって聞かされてもなんとも思わないほどの嫌い方もすごいと思うけど、三浦の和也への執着はこれの裏返しなわけで、不思議でもなんでもない。三浦が和也に冷たい仕打ちをされても離れられないように、和也はどれだけ三浦に想われたとしても逃げたいんだと思う。
ただまあ、和也は本当に三浦が嫌いなわけでも、逃げたいわけでもないので、そこらへんが切ないっていうか、もどかしいっていうか。三浦に感情移入していれば、ムカつくところになるのかな? スイートラブが好きな人だと、「愛はどこですかー?」って叫びたくなりそうな話だし、痛さもあるんだけど、他の作品みたいに突き抜けたところがない。心理描写が繊細で、ストーリー展開より心情面を軸にしているようなところに、瑞々しさを感じるのかもしれない。
私はこの作品を、お互いに対してだけは極端なぐらい不器用ですれ違ってしまう二人の話って受け止めてる。

木原作品はどれもラストがいいと思うけど、この作品のラストは秀逸だと思う。
和也に感情移入しながらほろ苦く読み進めていって、ラストで三浦の切ない愛情に触れて泣ける。私の場合、本当に最後の最後までこないと、三浦の気持ちが分からない。何度読み直しても、きっとそうなんだと思う。
和也にいつか三浦の気持ちが届いて、素直な気持ちで受け入れられる日が来ればいいなあと。ほんのちょっと三浦に持ってるイメージが変わるだけで、劇的に関係が変わってしまいそうなだけに、二人の現状が切ない。

木原音瀬 | comments(0) | -

LOOP

木原 音瀬
オークラ出版
(2003-10)

『恋愛時間』の有田の弟の話。


あらすじ引用

幼い頃から州脇義国のなかには、宮沢という若い男がいた。宮沢は、過去に愛した女への未練を昇華できず、現世の自分(州脇)のなかにとどまり続けていた。そんなある日、大学で知り合った英一が、宮沢の想い人の転生であることを知った宮沢は、果たせなかった彼女との幸せな日々を、英一で遂げようと英一に付きまとうように。英一会いたさに州脇の身体も、意識さえも自由に支配していた宮沢だったが…。なんと!文庫でしか読めない大量番外編付き。

「LOOP」
これはちょっと読みづらい話。ただ…苦手という感じでもない。
前世でストーカー、幽霊?(ここまで宮澤)になってもストーカー。生まれ変わっても(ここから州脇)もちろんストーカー。死んでもまだストーキングされ続けるって救いがないな〜というのが初読での感想……。このストーカーぶりの息苦しさと、前世の記憶が陰惨だということばかりが印象に残っていた。
で、今回読み直してみて、このストーカー描写がわりと短いことに気付いた。そんなくどくど書いてあるわけじゃない。ただ話に引き込まれ、どっぷり感情移入しながら読んでいたので、ものすご〜く長く感じていたらしい。夢として出てくる前世の記憶もわりと短い。だけど強烈。
実のところ、英一(有田弟)がなぜ洲脇に惹かれたのかがよく分からない。流されやすい性格なのは確かなようだが、最初に脅された時点から拒否するのは難しくなかったのに、付け入る隙を与えているあたりが理解できない。ここは宮澤の執念が勝ったと考えておけばいいのかな…。
木原作品のキャラは「恋に落ちた」というより「情が移った」という感じで相手を受け入れていくことが多いような気がする。そこから激しい愛情に変っていくのだが、心理描写が巧みなので、なんだかよく分からないけど感情移入してしまう。まさに「恋愛は理屈じゃない」ってことを体現しているというか…。
洲脇が英一に惹かれる過程も説明しようとすると結構難しいような気がする。宮澤の想いにシンクロしていたからというわけでもなく、洲脇は洲脇として英一に惹かれているような感じがする。
たぶん説明がないから余計に心情が伝わってくるんじゃないだろうか。だってストーカーになってしまうほどの執着とか、家族を捨ててしまうほどの激しい恋は、やっぱり言葉で説明されても理解できないし。そこらへんは感じ取るしかないような気がする。…感じ取らせるだけの筆力がすごい。
もっと穏やかに、自分と周囲を傷つけない方法で想いを遂げることもできそうなのに、そうできなかったこと、こういう方法でしか結ばれなかったことが納得できてしまう。単純に思えたタイトルが重たい…。
前世の話も強烈に痛い。
英一の前世である文が、自分を監禁し強姦し堕胎にまで追い込んだ宮澤を殺すことを「裏切った」と表現されているところに寒々しさを感じた。ここまでされて裏切るも何もないだろうと思う。そして文がほんの少しでも宮澤に同情だか愛情を残したことが私には不思議でならないのだが、文の優しさ(なのかな?)がこの作品の救いになっていることは確かで。文が殺されてしまうという悲惨極まりない結末なのに、夢の終わりは悲しく柔らかい感じがする。とてもきれいで鮮やか。

「eternal」
英一と洲脇のその後と、英一の叔父の話。
最初は快活なタイプに見えた洲脇が、なんだかすっかり暗い感じになっちゃったなあとか最初は思っていたのだが、英一への真摯な態度がいいなあと。「LOOP」の終わりでは、英一はこれで幸せになれるのかなー、有田兄がもう少し頑張って二人を引き裂いてくれたほうがよかったんじゃないかなーという気持ちも残っていたのだが、この作品を読むとこれでよかったんだと確信できる。
ただ「LOOP」はあの終わり方が一番相応しかったと思う。スイートエンドに慣れた読者としては、ほろ苦いラストだったけど、あのストーリーはあそこで一旦幕を下ろすべきで、物語として語るべきところはあそこまで。甘ったるくせずに続編という形を取ったのがよかったんじゃないかと。
初読のときはラストの英一の台詞に排他的、刹那的、閉鎖的なものを感じて、なんだかなあと思ったものだが、じっくり読み返してみるとこれはこれでいいなあと思えた。とくに「F」を読んだ後だと、余裕をもってというか、長い目で見られるからかもしれない。この二人の未来は続いていくし、一緒に歳を重ねていけば、自然と落ち着くんじゃないかな。まあ無限ループに陥って、心中しちゃうかもしれないような危うさも残ってるが…、それはそれでいいんじゃないの、と。
ただ、この二人は今度こそ幸せになれそうな気がした。

「F」
英一の叔父、和久と友人の船橋の話。
これは名作だなーと思う。60年代が舞台で、BLというよりは青春小説といった感じの味わいがある。現代と同じようにジタバタしながら、いまよりちょっと生真面目な学生の姿が描かれている。
それにしても、人の心の機微がまったく分からない船橋のような人こそ、本なんて読まずに人と話せばいいのになあと思ってしまう。そんなに空っぽで、文学が心に響くことってあるのかな? でもそこでまわりに突き放されずに、和久や他の友人たちのように「知りたい」と思わせるだけのものを持っているのだから、空っぽってことはないのかもしれないけど。不思議な魅力を持ってる……。剣道している場面とか、「格好いい」っていうんじゃなく、なんか惹かれるものがある。
そういえば「F」っていうイニシャルも象徴的かもしれない。他のハ行の名前なら「H」になるのに、フのときだけはFにできるってところが、なんか船橋のキャラに合ってるような気がする。
和久が先生を本気で愛しながらも、船橋に淡い想いを抱くところもいい。「彼女より船橋が好きだって気付きました」って展開になったら、普通のBLとしては面白かったと思うが、この作品に限っては「安っぽい」と感じたと思う。船橋が簡単に恋を自覚できなかったところに、この作品の深さがあるというか。
30年後、和久が病気でもう長くないというときになっての再会と告白。じわりと悲しくなる。号泣とか、涙がほろりとか、胸がキュンとなるとかいう悲しさじゃなくて、「ああ、悲しいね」って諦め半分穏やかにしみじみと悲しくなる。文学的な悲しみという感じ。
木原作品を文学的な作品だとは思わないし、エダさんの「魚住くん」の一部分とか杉原理生の「テレビの夜」に感じたような文学の香り?とも違う。ただこのモヤモヤッとした悲しさが純文学の読後感に近いので、文学なんてよく分からないんだけど「文学的」と書いてみた。
心に刺さるというより、心になにか残す作品で、かなり好きな短編。

木原音瀬 | comments(0) | -

薔薇色の人生

木原 音瀬
リブレ出版
(2008-07-18)

めちゃくちゃ面白かった…。
BLノベルスとしてはかなり高めの値段から想像はついていたが、厚さ2センチ、338ページとかなりの読み応えがある。でも一気読み。正確にいえば往復の電車と帰宅後に読み、1日かけて読み終わったわけだが、とにかく夢中で読んだ。

まずキャラがいい。木原作品にはヘタレ攻が多いけど、百田はイラッとこないヘタレで。うーん、何度も自分を卑下したり、泣いたりするのだが、なんというか愛嬌があるというか。あんまりメソメソするキャラだと背中に蹴りを入れたくなる私だけど(…人として間違ってます)、百田はなんか慰めてあげたくなる。それに彼の明るくて人が好くて素直なところは本当にいいと思う。思いやりがあるし。確かにダメダメだったけど、今は仕事を頑張っている、気のいい人という感じ。癒し系かも。
で、受のロンちゃんが恐ろしく真面目不器用なタイプなのだが、頭の固い私は彼のいうことに結構な頻度で頷けるので、これまた共感しやすいキャラで。百田の過去の犯罪を「仕方なかった」と言って許したりはしないあたりが納得できる。その上で、頑張っている今の自分を否定することはないって真剣に言ってくれる。この台詞には感動した。こういうことを言える人っていいなあと。百田が迷わず浜渦の優しいところが好きだといった気持ちもよく分かる。優しいし、強い人だ。
あ、あと甚呉も面白いキャラで好きだなー。いい人というより、いい奴。いい味を出しているキャラ。

ストーリーはいつもながら先が気になる引き込まれるもので、暗かったり、希望が見えたり、ハラハラしたり、しんみりしたり、ほっこりしたり、感動したりと、いろんな要素がバランスよく入っていた。深いし、味わいがある。
今回は愛もたっぷりあるし(笑)
正反対の魅力を持つ二人がお互いを大切にしながら一緒にいるのは、まさに薔薇色の人生。タイトルに偽りなしな、幸せな気分になれる1冊だった。
木原音瀬 | comments(0) | -

美しいこと

木原 音瀬
蒼竜社
(2007-11-21)

【まず上巻の感想】

うおお〜〜、メチャクチャ好みだ!! 激しく好きだ!!
だいたい木原さんの仕事のできる強気リーマン(社会人)受は趣味に合うので、松岡が趣味に合う。BL系で女装するキャラは苦手なのだが、その女装癖さえツボにはまっていた。
女装について。
実は以前これとほぼ同じ設定の小説を読んだことがある。まあ女装ネタは珍しくもないと思うし。(木原さんの作品のほうが発表が早いのだが、私は雑誌掲載を読んでいないので順番が逆になった)
女装した受が街で会社の冴えない同僚(上司)と偶然会ってしまい、とっさに口のきけないフリをしてその場を切り抜けようとするが、熱烈に惚れられてしまい、断りきれずにデートを繰り返し…って話。
でもその作品は全然趣味に合わなかった。もちろん木原作品が元から私の趣味だからってこともあるが、女装がね。その話はロリータ系でちょいイロモノが入ってたから、なんだかついていけなかった。…どうせなら美少女より美女のほうが好きなのよ。
で、松岡の女装はそこらへんの女よりずっと綺麗に仕上がる、しかもストレス発散のための女装という納得のいく理由つき。あくまで自分の趣味で。しかも女性に憧れているわけじゃないってところがポイントかな。まあ私の趣味に合うかどうかという意味でのポイントだけど。
スーツをビシッと着こなすキャラが好きなように、女装して(素材で女性に見えるわけではなく、きちんとメイクして着飾った上で)大人の女性の美しさがあるキャラというのも好きだ。

テイスト。
寛末は木原作品では珍しくない、優しくて冴えない要領の悪いヘタレ攻。メソメソ泣かないあたり、私には好感触。
この攻が熱烈に押してきて受は余裕でいたのに、途中で立場が逆転するところが木原テイスト。逆転してからの切なさがたまらなくいいと思う。

痛さ。
ガツンとやられたが、今のところ平和で安心している。でも下巻の展開がものすごく怖い。もう何回かガツンガツンとやられそうで不安。
会社(同期の福田とか)に女装趣味がバレるんじゃないかとか、最初にホテルに置いてきてしまった財布に身元が分かるようなものが入っていただろうし大丈夫なのかとか。
それより木原作品の女性キャラはどう化けるか分からんので(たいがいトラブルの元だ…)、二人も出てきてるよ、こえー、とか。
二人のこれからの関係以前のところで不安材料がいっぱいで……。妄想が逞しすぎるかもしれないが、うう、本当に怖い。初冬の怪談か…ってぐらい怖い。
あー、下巻が楽しみだ…。読むまで安心できない……。

読後感だけじゃなくなったような…。なんか予定より長くなったな。
とにかく松岡も寛末もすごく優しいけど人間味あふれる弱さも持っていて、感情移入しやすいし、魅力的。


【ここから下巻の感想】

松岡…! なんてカッコよくて健気な人なんだろう。仕事もできる、顔もいい、性格は気が利いて気遣いができて優しい。
そんな松岡が惚れている相手として、「たいした男じゃない」寛末は全然釣り合っていない。気が利かないのも仕事ができないのも卑屈になるのも別にいい。でも無神経に松岡を傷つけるのが、ものすごくムカつく。
でも、なんで寛末なの?とは思わなかった。ちょっと無神経でかっこ悪い男はいくらでもいる(から許容範囲だ)し、優しくて誠実で一緒にいると癒される男はあんまりいない。優しさや誠実さといった長所はもとから見えづらい上に、無神経さと優柔不断さで目減りしてしまっているが、寛末は結構もてるタイプなんじゃないかと思う。一見、操縦しやすそうだし(笑)
「愛しいこと」では寛末の視点になるが、寛末がぼんやりしていて気付かなくても、松岡の健気さはしっかり示されるので、最初から結構切ない。切なければ切ない分だけ寛末にムカつくし、BLにどっぷりはまっているので、男だからって何の問題が?とかつい思ってしまった。けど、松岡が男だから付き合うのは無理っていうのは、我が身に置き換えて考えてみると、無理だよなあ…と納得できる。結婚まで考えていた女性が実は男でしたと分かるのって、普通に同性に口説かれるよりダメージが相当大きいと思う。抵抗感が生理的嫌悪にまでなってしまうというのも分かる。
そこまでは共感できるんだけど、それと松岡を振り回し続けるのは別の問題。思わせぶりなだけの寛末を遠ざけようとして、松岡は何回「お願いします」って頭を下げたんだろう…。もうこんな男さっさと忘れちゃえばいいのにって思うんだが、それができれば苦労はないわけで。それに適当に甘いことを言わない寛末の態度は、やっぱり誠実さの表れだと思うから…松岡が可哀想過ぎるけど、不器用な男に惚れちゃったから仕方がないのかなあとも思えた。
寛末にムカついて表紙の革靴で頭を殴ってやりたいと思ったりもしたが(…)、プライドがボロボロになった状態でもまだ癒し系なところに感心したり。情けないしカッコ悪いけど、魅力がある人だなあと。
それまでの経緯を考えれば上京して松岡に突き放されても当然と思ったけど、松岡が相変わらず健気なので、うまくいってほしくなった。まだ離れたくないからと寛末が松岡を引き止める場面では、寛末の頑張りに期待して応援してたし。
普通なら甘いばっかりの、思いが通じ合ってからのエッチシーンなのに、読みながらボロボロ泣いてしまった…。痛かった、切なかった。こんな場面まできてもまだ寛末に蹴りを入れたい気持ちでいっぱいになるなんて…。
ラストのメールがまた泣けた。松岡…、いじらしすぎる。
寛末にはもっとしっかり松岡を大事にしてあげてほしいと思った。
この作品はキャラの心情、行動に「なんだかよく分からないが了解」(*)と思うこともなく、納得ずくで感情移入できてよかった。
もっとこう…ガツンとくる落とし穴があるかと思っていたのだが、女性キャラも最後まで普通だったし、まあリストラは結構きつい展開だが、松岡じゃなかったので全然OK(…)。
痛さは切なさからくるものだけで、痛いけど読みやすかった。
感動した〜〜。

* 木原作品の場合、なんで相手を好きになったのか私には理解できないことも多いが、理由が分からなくても感情移入してしまい、話に引き込まれる。読んでいて「好きだってことはとりあえず了解」、みたいな気分になることが多いので。
木原音瀬 | comments(0) | -

FLOWER

木原 音瀬
リブレ出版
(2007-06)

「植物シリーズ」3部作の中の1冊

『WEED』で、若宮に輪をかけた最低ぶりを発揮していた谷脇が主人公で、相手は番外編で登場していた松本。
またこれはちょっと…な場面から始まるが、「酔わせて強引に」はBL的にはよくある展開なので、張り紙の前で堂々とやっている分、逆に落ち着いて読めるのだが……。
その後の最低ぶりは犯罪部分を抜きにしても、ものすごい。
で、読み始めてわりとすぐに、マズイなあと思った。
この最低な鬼畜医者はものすごく私の好みのキャラで……。別に鬼畜キャラを好きになるのは構わないが、松本の辿る運命を最初から知っているだけに感情移入せずに淡々と読みたかったのだ。
でもダメ、すごい好き…。(ちっとも大丈夫じゃないんで、気にせず見捨てて下さい)
そして恐ろしいことに、登場当初の松本はものすごく苦手な、流され系、気弱タイプのキャラで、ひどいめにあっていても、なんだかあまり同情できず。かなり自分のモラルを疑ってしまった…。張り紙を増やしたほうがいいんじゃないだろうか。
まあそんなことはともかく。
松本が靡いてこなくなると、だんだん松本が魅力的に思えてくる。知らないうちに松本に落とされているあたり、谷脇に感情移入している度合いが強いというか、恋愛を追体験しているみたいな気分になった。
けど、先を知っているだけに、ああイヤだなーと思いながら読んだ。松本に対してひどい態度を続ける谷脇に「少しは思い知れ」って感想も持てない。
谷脇は(若宮に対してもそうだったが)自分の恋心を自覚できない人で、それがまたもどかしいというか、悲しいというか。異常なほどに執着しているので、もうとっくに落とされているのは読者には分かるのだが、本人はどうやっても気づかない。
そうしているうちに松本の病気が発覚し、普通ならここでもっとショックを受けるのだろうが、それもスルー。作者にそういう意図があるかどうかは分からないが、医者って職業も関係があるような気がする。普段から人の生き死にを見ている人だから、普通の人より病名を聞いても冷静だったんじゃないかと。たとえ顔見知り程度でもショックな病名だし、個人的にどうとかいう問題をおいても病名のインパクトが強いから、反応が薄いのは麻痺してるからかなあと思った。
今まで谷脇に感情移入しながら読んでいたので比較的に楽だったのだが、ここらへんから早く自覚してって思うようになるから、読んでいて辛くなる。馬鹿だなあって悲しくなるというか。
結局、松本への思いを自覚するのは死んでからで…。谷脇は自業自得だし、自覚してしまっていたらその後が地獄だったろうけど、松本のためにもう少し早く自覚していてくれたら、自覚しないまでもせめて無自覚な思いが伝わっていたらと思わずにいられない。
だけど、谷脇もかわいそうな人だと思う。不器用で可愛いとかいうレベルじゃないから余計に悲しい。庇うような余地もない人だが、あまりに切なくて泣けてくる。
こうなっていれば、ああなっていればと、いつまでも考えてしまった。

やっぱり悲恋ものは読むのがしんどい。
木原音瀬 | comments(0) | -

脱がない男

木原 音瀬
リブレ出版
(2007-03)

面白かったので一気読み。といっても、本当に一気に読むほどの時間はないのだが、読了まで自由になる時間は全部つぎ込んでしまった。
こんなに笑える告白シーンも珍しいのではないかと。や〜、読みやすかった。
藤原課長、文句なく好みだ。
でも、甲斐谷はダメだった。まあ全否定はしないというか、嫌いではないのだが、あまり魅力は感じず。
上巻での身勝手な暴走ぶりに、お前は掛川(『セカンド・セレナーデ』の攻)系か?ってものすごく不愉快だった。掛川は木原作品の中でとくに受け付けないキャラで。常識の範囲内の嫌な奴に対して「嫌な奴だから何をしてもいいんだ、自分は悪くない」みたいな態度で、非常識な嫌がらせをしてたので。ある意味、DVキャラより救いがないというか。
で、甲斐谷はそこまで酷くはなかった。いや、やってることは明らかに犯罪なのでヨゴレなんて軽い言葉ですませられないと思うし、反省はものすごく足りなかったのだが、木原作品の気が弱くない攻にしては優しいタイプなんじゃないかと。
…しかし、言い方が悪いにしても、社会人としてごくごく当然の注意を受けて、ここまで逆恨みするのもすごいな。筋が通ったことしか言わない藤原なんて、かなりマトモな上司だと思うんだが。
という、またしても頭の固い感想を持ちつつ読んでいたのだが(時々、自分の読書傾向はBLに向かないんじゃないかと思う)、藤原が好きだし、話そのものがとにかく面白いので、まあ甲斐谷がバカなことぐらいいいかという気になった。
藤原の身体に関するコンプレックスは少しも笑えないものだったので、正直ちょっと痛かったが、それはそれとして話自体は楽しめた。
それにしても、主人公二人とも、よく泣いて、よく吐く話だったなあ(笑)

追記。
おおう、読み返すとどこが面白かったのか、ちっとも分からない感想になっている……。ラブな部分はもちろん面白かったし、甲斐谷の成長ものとして読んでも面白かったんじゃないかと。
最初から最後まで藤原に悩殺されていたので、素敵vみたいな感想ばっかりで…。


【再読の感想】
藤原がソファーで泣いてる場面でいつも涙ぐんでしまう…。甲斐谷の優しさ(というか反省)がまたいいなあと。コメディ部分と毒々しい部分ばかりが目立つ作品だけど、しっかり感動できる場面があるところが好き。ラストのきっちりした甘さもいいし。藤原好きだなー。変人なキャラだけど。
木原音瀬 | comments(0) | -

リベット

木原 音瀬
蒼竜社
(2006-09-21)

テーマが重いので人に気軽に薦めることはできないが、大好きな作品。
 
やられた…。
初芝先生かっこいい…。
こんなに私は先生が好きなのに、先生は車の運転が下手くそな女はお好きじゃないでしょうね。
…うわ言はともかく。
えぐるような痛い展開の中で、初芝の強さと弱さが胸に迫ったし、乾の優しさが染みた。辛いだけじゃないって思える救いと後味のよさがあったと思う。
うーん、真面目に感想を書こうと思ったんだが、どうも言葉にしづらい。とにかく面白かった。
初芝という好みのキャラとストーリーの面白さが揃っているので、とくにBL的展開も期待せずに楽しく読んだ。別に初芝が彼女と結婚して幸せな家庭を作るというラストでもまったくもって構わなかったし、なんか乾は初芝にずっと片思いしてればいいじゃんとか思ったりもした。乾は乾でかなり好きなキャラなのだが、そういう意味では応援していなかったというか…。まあ初芝が幸せになれば、乾も本望なんじゃないかなあ(笑)
ただ単に、受が好みだと時々攻が邪魔になるってだけですが…。

そういえば、今回はガツンとやられずにすんだな。途中何回かひやっとさせられる場面はあったが…。

カバー下のオマケがまた嬉しかった。


【再読の感想】
二人が両思いになるまで話が辿りついていないためか、BLではないという意見もあるようだが、私は片思いの純愛だと思う。ただ、主人公の初芝が思われる側なので、やっぱり恋愛ものとしては変わっているかもしれない。
初芝はすごく強い半面、すごく脆いところもあって魅力的。それに優しい。レイプによってHIVに感染し、病気のせいで恋人から拒絶され、副作用に苦しむ。そういう悲惨な状況で親友だった加害者や恋人を恨んだりもする。きれいなだけ、強いだけじゃない、ごく当たり前の人間的な感情も持っていて、それでも頑張っている姿に胸を打たれた。一番辛い時期に、初芝は事情をすべて知っている後輩の乾に当たってしまうのだが、ひどい言葉を投げつけたり殴ってしまったりするたびに、深く後悔と反省をする。置かれた状況を考えれば、甘えるのは仕方がないと思えるのだが、当たられる乾にしてみれば大変なことで…。「俺は、俺が嫌だ」という台詞から初芝の気持ちが痛いほど伝わってきた。八つ当たりをしてしまうのは弱さだが、自分を立て直そうとする初芝はやはり強い人だと思う。この状況で強くあろうと努力できるのはすごいことだ。
そんな初芝もラストのほうで薬を飲むのをやめてしまい、生きることを放棄してしまうが、ここで乾がしっかり受け止めてくれるところが感動的だった。乾はこの時点では完全な片思いなのに、初芝と真剣に愛し合っていた由紀でさえ受け止めきれなかったものを受け止めてくれる。まさに純愛だと思った。
でも、初芝の恋人だった由紀も責めることはできない。由紀には由紀の人生があるというだけで…。由紀の選択をひどい、冷たい、とは言えないところが、この話の重たさ、切なさだと思う。
「リベット2」では乾の視点になるが、乾の最終的な選択にほっとした。
初芝は転任先の学校で病気のことを同僚に打ち明け、「自業自得だ」と言われてしまう。そういう偏見を持たれる病気だし、病気について多くを語りたくない上に、まさか本当のことも言えないし、初芝は自業自得と言われても何も言い返せず、耐えるしかない。悪いことなんて何もしていないのに、病気そのものだけでなく、周囲の無理解や孤独とも戦っていかなくてはいけない。
だからこそ、片思いでいいから、新しい恋人ができるまでの間だけでいいから支えたいという乾の言葉が嬉しかった。本当にもう初芝を一人で泣かせておくのは嫌だと思ったから、乾の優しさをありがたく感じた。初芝のそばに乾がいてくれてよかった。

重たくて切ない話なんだけど、初芝の強さと乾の純愛に感動し、じわーっと心が暖かくなる作品だ。
カバー下の続編は嬉しかったが、やはりそこまで行く前の二人の話が読みたい。切実に続編が読みたい…。
木原音瀬 | comments(0) | -

箱の中 / 檻の外

草間 さかえ
蒼竜社
(2006-05-25)

 『箱の中』と『檻の外』、両方の感想。
…ちなみに作者名のところに(自動的に)イラストレーターの名前が入ってしまっている。
作者は木原音瀬です。


『箱の中』
最初のほうではそりゃあもう痛くて参った。
(いまちょっと辛いことがあると胃が痛くなる状態なので、本当に痛かった…)
痴漢の冤罪がどれだけ大変なのか多少は聞きかじっていたが、やはり木原作品だと自分の貧困な想像力ではカバーできなかったところまで描かれているので、痛さが違う。
といってもジェットコースターに乗って絶叫するようなもので(私には当てはまらない。あんなものに好んで乗らない)、楽しんではいるのだが。
でも怖いものは怖いし、痛いものは痛い。
というわけで、喜多川との心の交流(はしてないかも…)は読んでいてほっとするものがあった。徐々に堂野が心の安定を取り戻してくれたのが嬉しかったし。
だけど、彼が出所して結婚が決まったとき、もうこれで話が終わってくれないかなと思った。いや、別に喜多川を嫌っているわけでもないし、そんな結末もひどいと思う。それじゃ喜多川がかわいそうだろうけど。
ただ、堂野が辿ってきた道筋を思うと、なんかもうここで「めでたし、めでたし」にしてあげたくなったというか。せっかく平坦な道まで戻ってこられたんだから、もう喜多川とのことは思い出にしてもいいじゃんって思っちゃう。
喜多川と再会することで不幸になるとは思わないし、思いたくもないんだけど、まったく何の障害もなくハッピーエンドにはならないことは分かっているので、その乗り越えなければならない山脈(…)のことを考えると、もうそっとしておいてあげたくなる。
世の中の親の多くは子供の人生には、波乱万丈でドラマティックな展開の末に大きな幸せをつかむものより、小市民的でもいいから温かく人並みな生活を、って望むものではないかと思うのだが(もちろん違う人も大勢いるだろうけど)、そういう感覚になってしまうようで。保守的だ…。
BLとしての恋愛部分も楽しんでいたんだけど、なんか堂野の境遇が強烈だったためにそう思ってしまったらしい。BLとして弱いという意味ではなく、それだけ感情移入させる力が強かったということです。
堂野は弱さも持っていて、特別な美形でもなく、本当に普通の人だと思う。でも、情が強くて芯が強い。魅力的なキャラだ。
素敵vっていうより、いいなあと。しみじみ。
や〜、よかった。堂野に熱愛してしまうと初芝先生に申し訳ないし。(どうしても名前を出したかったらしい)

それにしても、二人の関係がうまくいっているときでも、やっぱり痛みを伴うんだなあと。


『檻の外』
うう…。
堂野が弱くて卑怯な行動に出て、そういう意味で痛い展開になるのかなあと安心していたら、ううう…。
山脈越えかと思っていたら、単に(単に?)崖から突き落とされただけでした、みたいな。
…まあそれについては感想の書きようもないけど、その前の、堂野と再会してからの喜多川の一途さには泣けるものがあった。堂野も本当に情が深くていい人だと思った。
堂野が喜多川を少しだけ疑ってしまったとき悲しくなったけど、考えてはいけないと思っても悪い方向に考えてしまうこともあるし、警察や奥さんに対しては庇ってたからほっとした。
橋のシーンがすごくよかった。感動した。

『雨の日』も甘くてよかったなあ。これがあったから『なつやすみ』のラストが余計に感動的だったんだと思う。
読んだ直後はやっぱりショックで、ここまで書かなくてもいいのにって思った。息子の台詞じゃないけど、堂野がかわいそうで。
でも、あとがきの「喜多川の人生を書ききった…」という言葉がすごくよくて、ラストのところだけもう1回読んだら、ここまで書いてくれてよかったなと思っていた。堂野の「こうなってみると圭の方が先でよかったのかもしれない」という台詞は本当にその通りじゃないかと。喜多川の人生は堂野に出会えたことで満たされて、満ち足りたまま終わったということが嬉しい。もちろん堂野はかわいそうだし、時期は早かったけど、避けようがないことだから。堂野も逆だったら、さぞ心配で心残りだったんじゃないかと思うし。
多分今度は、喜多川は堂野に一緒に死んでほしいとは思わなかったような気がする。

まだ書き足りないけど、どう書いたらいいか分からない。
いい話を読んだ。
木原音瀬 | comments(0) | -

恋愛時間

木原 音瀬
オークラ出版
(2002-01)

BL作品の中で最も好きな作品のひとつ。
いままで何度か感想を書こうとしても、どうしても踏ん切りがつかずにいたのだが、そろそろ試しに書いてみたくなった。書き足りなくて、そのうちまた書きそうな気もする。

小説にくらべて漫画のほうが感想が書きづらい。感覚的に読んでしまうことが多いので、もやもやっと感じたことが頭の中に広がっているんだけど、うまく文章化できずにそのうち拡散して消えてしまう。
『恋愛時間』は小説だけど、私にとっては感覚に訴えてくるところが大きい作品で、大好きなんだけど感想は書きづらいなあと思っていた。


「恋愛時間」
主人公の有田がすごく好きだ。この人はとくに美形でもないし、もちろん(?)セレブでもない。ごく普通の会社員。二十代で課長になるぐらいで、仕事はできるほうだが、大企業に勤めているわけでもないし、石を投げれば東大卒、二十代の社長に当たるBLというジャンルでは、かなり地味な設定だと思う。
でも親切で優しくて、仕事もできるし、さっぱりとした性格の男前。ツボです。もうものすごくツボにはまるキャラ設定。
彼が大きく人と違うところは、男と駆け落ちした弟がいること。しかも普通の男じゃなくてストーカーだってところがすごい。有田はこの弟の恋人とも話したことがあって…必要以上に同性愛に対して警戒心が強い。
というわけで、後輩の広瀬に告白された有田は強く拒絶し、ちょっとやりすぎなんじゃないかと思うほど意地悪なことを言ったりする。事情が分かっているので嫌な感じはしない。それに広瀬に辛く当たってしまった後は、有田はものすごく気にするので、かえって有田のほうが気の毒になってしまうほど…。
強いけど弱い部分もある。人間的で、等身大だけどカッコいい有田に惹きつけられ、気付くと作品世界にどっぷり浸りこんでいる。こういう作品は読んでいて気持ちがいい。
派手なエピソードはないけど、ちょっとずつ広瀬との距離が縮まっていく過程が丁寧に描かれている。あらすじを説明するだけでは作品の魅力が伝わりにくいが、読んでいて情景が目に浮かぶような、印象的なシーンが多い。感想が書きづらくなる原因はこのあたりかも。
広瀬もわりと好き。一言でいえば優しくて冴えない男。ヘタレっていうような可愛いイメージではなく、まあとにかくモサっとしててトロい。仕事も丁寧だけどとにかく時間がかかるので、できる男のイメージもまったくない。「これが自分だから」なんて開き直ってマイペースになっていれば、多少は軽やかな感じだろうけど、広瀬の場合はそこで開き直らないところに一本筋が通っていて、頼もしさはないけど、人間的に信頼できるタイプ。
この鈍くさい男は有田への想いを自覚するのに(出向で離れていた時期もあったけど)、実に6年もかかっている。でも、そのぶん?一途で、いじらしい。有田に拒絶されても、具合が悪そうな彼を放っておけず、強引に車で送ったりするあたり、ホントいい奴だなあと。
有田の気持ちが少しずつ広瀬に傾いていくのも納得ができる。一途に想われてるからってだけじゃなくて、なんか一緒にいて気持ちが安らぐんだろうなあと。
でも広瀬はトロい上に鈍い子なので有田の気持ちの変化にはまったく気付かず、餞別に(同情で)キスしてもらったと思い込み、本社に出向してしまうのだった……。
そして残された有田は深夜にラジオをつけ、広瀬への想いを自覚する。素敵なラストシーンだ。
雨上がりの海岸線もすごくよかった。


「恋人時間」
こちらは広瀬の視点。有田を想う気持ちは相変わらず強くて、自然と応援してしまうのだが、とにかく読んでいて焦れったい、歯痒い。あれだけ露骨に気持ちを伝えていたくせに、なんでこう押しが弱いのか。すぐに電話しろって言われてたのに、1ヶ月も放置とか。しっかりしろ!と、どやしつけたくなる。
そんなわけで広瀬の視点なのに、なぜか有田が頑張っている姿のほうが目立つ……。しかも有田は同僚に「広瀬は男前だ」ぐらいのことを言っていたらしく…かなり恋しちゃってるのが伝わってくる。
有田のほうから誘ってくれてるのに、据え膳もスルー。いや本当に有田が気の毒な場面でした…。
そして気まずいからといって、また1ヶ月も電話もしないで放置してしまう。…このヘタレが。しかもまたしても有田のほうから食事に誘ってきたのだが、間が悪いので有田の目の前で、広瀬はすごい美人の同僚に抱きつかれ…。なんだかもう有田がかわいそうだった……。
ここまでいくと、有田じゃなくても「彼女ができた」なんて嘘をつきたくなるだろう…。これも嫉妬してのことではなく、女と付き合ったほうが広瀬のためになるんじゃないかという、泣かせる理由でついた嘘なんだけど。
で、やっぱり広瀬なので、そう言われても有田を帰してしまい、翌日になってからやっと追いかける。そこからはお決まりの甘い展開になったわけだが、ラストはすごく切ない。
…弟が男と駆け落ちして家の中がメチャクチャになったという過去を持つ有田にとって、男同士で付き合うということは普通の人以上に覚悟のいることで、痛みを伴う。それでも広瀬と付き合おうと決心する有田の想いの深さと男らしさが感動的。


「兄の恋人」
BLの続編で第三者視点になってしまうのは、個人的な趣味としてかなりガッカリだ。本編が面白ければ面白いほど、主役カップルへの思い入れも増すから、第三者=邪魔という感じになってしまう。
そういうわけで、広瀬のもっさりとした弟の視点で、しかもブラコンの広瀬の妹がふたりの関係を邪魔するというストーリーは入り込みにくかった。こういうパターンはもういいよ、という気分で読み進めていくうちに、驚きの展開が…。
さすが木原作品。妹が恋人だと偽って「広瀬と別れて」と迫ると、有田はあっさりと身を引いてしまう。この場面が痛い。ものすごく痛い。
有田は少し強張った顔をして妹に会い、淡々とした態度で「広瀬と別れる」とだけ告げる。取り乱したりしないし、悲しそうな顔もしない。「広瀬をよろしくお願いします」と頭まで下げて見せる。
このときの有田の心情を、有田の視点で逐一書かれるより、第三者の視点で語られるほうが余程痛い場面だ。上手い……。上手いからこそ、有田の気持ちが伝わってきて痛い。
広瀬に裏切られたと誤解してるのに、広瀬のためを思って何も言わずに潔く別れられるぐらい強く、しかも本人に浮気の有無を確かめられないぐらいに弱い…。本当に広瀬が好きなんだと分かってしまう場面で、何度読んでも切ない。
広瀬と別れた直後に、有田は映画館に行って一人で泣く。部屋で泣けない気分だったのか、気晴らしに映画を観るつもりで出かけて、泣いてしまったのか。これも泣けてくる場面だ。
で、次は誤解が解けて妹が反省して…なんてありきたりなハッピーエンドがくるのかと思っていると、これもこない。けど、広瀬は有田のもとへ帰って行き、広瀬の妹はただのワガママではなく、兄のことを本気で心配して別れさせようとしていたのだと分かる。守りたいと思う人がいると、どうしても安全策をとってしまうものだと思う。彼女が世間体を気にするのは広瀬を守るためで……。物分りよく「わたしは味方だから」とは言えなかった気持ちには、すごく共感できた。…応援してあげてほしいとは思うけど。
現実の厳しさが痛い話だが、痛さより切なさが強く、最後には暖かい気持ちになれる。いい話だった。


「海岸線」
「兄の恋人」で別れてしまったふたりが、縒りを戻す場面だけの短い話。
最初は広瀬のかなり一方的な(といいたくなる)片思いから始まった関係が、ここにきて逆転…というほどではないけど、シーソーの傾きが逆になってしまったように有田は感じている。そんなことはないだろうと思うんだけど、まあ広瀬は相変わらず優しすぎて押しが弱いので、有田の想いのほうが強いように見えるのも確かで。有田の不安は消えないんだろうなあと…。
この時点で有田はすっかりカッコ悪くなってしまい、二股をかけられてもいいと思ってしまうほど弱くなっている。…そこまで恋に溺れてしまっているというラスト。甘さと切なさが混じっていて好きだ。
でも、広瀬、頼むからもっともっと有田を幸せにしてやってくれよ、といつも思ってしまう。


何度読み返しても、感動で溜息をつきながら本を閉じることになる作品。

木原音瀬 | comments(0) | -